ブログトップ >> 個別記事

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

amazonでチェック

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

結末の動機が難点ではありますが、2008年度を代表する重厚な傑作だと思います。
イギリス文壇に彗星の如く登場した超大型新人ロブ・スミスが本年2008年度CWA最優秀スパイ・冒険・スリラー賞を獲得し世界中の書評家から大絶賛された話題の注目作です。本書の中心で扱われている少年少女大量殺人事件は実際にあった事件に着想を得て書かれていますが、決してノンフィクションではありません。本書を著者が書こうとした意図はやはり謎解きの殺人ミステリーというよりも残虐な連続殺人犯を野放しにする狂った社会システムに支配された共産主義国家旧ソ連の姿を描く事にあったのでしょう。そこには人間愛など皆無で裏切りや欺瞞、罪の捏造、邪魔者の処刑による抹殺等々非道で醜悪な描写に多く筆が費やされ、大袈裟でなく一頁に一度は苦々しく遣り切れない思いが込み上げて来ます。そんな腐り切った社会の中で体制の側に立って非道な行いに手を染めて来た国家保安省の捜査官レオがあまりに酷すぎる悪行の実態を知って真実に目覚め、やがて権力の座から引き摺り下ろされて初めて己の所業を悔い改め、死を賭して連続殺人犯人を追い詰めようとする姿に感動を覚えます。そして心の拠り所で真実の愛と信じていた妻ライーサを一転して殺す寸前まで行く程の強烈な愛憎劇の凄まじさに圧倒されます。悪役ではワシーリーとザルビン医師のサディズムに満ちた異常性格が際立ち嫌悪感が募りますし、中盤で鮮やかに反転するスパイ小説としての仕掛けが見事です。終盤近くの列車からの脱走シーンは映像を意識したあざとさも感じますが、胸がすく痛快な見せ場です。そして最後の犯人との対決シーンでは、著者が意外性に重きを置いていないと感じますので故意に隠されていた最初の空白部分は許せますが、最大の難点はこの動機があまりに信じ難く大きな違和感を感じさせる点です。老巧の如き筆の冴えを感じる反面まだ若さ故の強引さもありますので、今後更なる著者の成長を祈って次回作に期待したいと思います。

連続殺人鬼よりも怖いスターリン体制
スターリン体制下のソ連において
44人もの子供を殺害した連続殺人鬼を、
国家保安省のエリート捜査官レオ・デミドフが
絶望的に困難な状況下で追う異色ミステリー。
本書で恐ろしいのは連続殺人鬼よりも、抑圧されたスターリン体制そのもの。
凶悪犯罪の存在自体を認めない国家体制の中にいるために
次々に子供が殺されているのに本格的な捜査は行われず、
事故として処理されたり知的障害者が犯人にさせられたりしてしまう。
そんな中にあって、レオは密かに事件の真相をつきとめようとするが、
体制側の圧力によって窮地に追い込まれてしまう。
はじめは体制側の冷酷なエリートだったレオが、
苦境に立ち向かう過程の中で次第に人間らしさを取り戻していくのが実に見事に描かれている。
あまりにも過酷で絶望的な状況に、読んでいて息苦しくなる程だが
先の展開が気になって読み出したら止まらない。



犯罪が存在しない国での犯罪
ニューズウィーク日本版5.28号の書評で紹介されていて、ずっとそそられていたが、個人的な事情により今まで読めなかった小説である。

舞台は1953年、スターリン恐怖政治下のソ連。”疑わしきは罰すべし”の論理により、多くの人間がささいな、あるいは全くいわれのない罪で弾圧されている。主人公のレオ・デミドフは、弾圧の先鋒を担う国家保安局(KGBの前進)の捜査官だが、自らも”疑わしきは罰すべし”の陥弄に捕らわれて左遷される。レオは左遷先で、連続殺人と思われる事件に遭遇する。だが、”凶悪犯罪は退廃した資本主義社会の病気であり、理想の共産主義国家ソ連に犯罪は存在しない”という絶対不可侵の建前の下、連続殺人犯の存在を指摘する事は国家への反逆に等しい。果たしてレオはどうするのか?

犯罪は存在しないという建前に固執するあまり、犯罪が起きた事を頑として認めまいとする…その気持ちはわからなくもない。だがそれでも、良心的に犯罪を捜査しようとする人間を反逆者扱いするなんて、いくら何でもひどすぎると思う。スパイや反逆者は”疑わしきは罰すべし”の論理をふりかざして、行き過ぎた弾圧をする一方で、一般の犯罪は存在すら認めず、実質的に野放しにするのも、完全にバランスを欠いている。本書の連続殺人犯もかなりのサイコだが、スターリン時代のソ連という国家の方がはるかにサイコだと思った。

だが、楽しいとはほど遠い話にもかかわらず、グイグイと話に引き込まれていった。終盤になると、強引な展開やご都合主義が目に付くのだが、それらを打ち消して余りある圧倒的な迫力があった。特に、自分はどうなろうとも、連続殺人犯の凶行だけは食い止めようと苦闘するレオを、手放しで応援してしまった。


スターリン体制下の陰鬱
 ネズミや木の皮まで食べつくして,静かに死を待つだけの,1933年のソ連の一寒村から話が始まる。やっと見つけた猫を捕獲しようと出かけた兄弟の兄が,何者かに(食料にするために)連れ去られる。
 なすことなく餓死を待つしかないという悲惨な状況にグイグイとひきつけられたまま,1953年・スターリン体制下のモスクワに舞台が移る。「ひとりのスパイに逃げられるより,十人の無実の人間を苦しめるほうがどれほどかましなことだ」という認識が共有されている国家保安省。「新しい社会」に犯罪は存在しないというイデオロギーで,猟奇的な少年殺しは単なる事故として処理される一方,ただの獣医やその友人を「西側のスパイ」として追跡・処刑する。証拠があるから逮捕するのではなく,疑いがあるから逮捕し,後から証拠=自白を作ればよいという捜査方法が採られる社会であるから,捜査官も含めて,社会の誰が疑いをかけられ,有罪となるか全く予測が付かない・・・。
 何の証拠もなく何千万人が処刑されたり収容所に入れられたスターリン体制下の社会状況をリアルに描写していて,いったん読み始めると止まらなかった。


途中で結末がわかってしまうのが残念
『このミステリーがすごい!』で第1位に挙げられた作品ということで期待して読み始めたのですが、少し期待はずれ感が否まれないです。
本筋とは直接的に関係のないディーテイルが必要以上に細かく書かれており、物語への集中力を保つのがキツイ気がしました。
また、感情を表現する箇所が非常に多く、読み手が感情移入しやすいのかもしれませんが、やはり、ちょっとしつこい感じ。
そういうところを飛ばして呼んでもストーリーに支障はなかったので、上・下に分けなくとも、簡潔に1冊にまとめてほしかった。
しかも、中盤になると、ストーリーのもっとも核となる犯人と主人公の関係が簡単に予想できてしまったので、おのずと結末も早い段階からわかってしまいました。
しかしながら、舞台設定が旧ソ末期というのがおもしろい。
共産圏の腐敗した社会を赤裸々に描いており、常に生と死に隣り合わせて生きる究極の様子がひしと伝わってきました。

amazonでチェック


関連する本

チャイルド44 下巻 (新潮文庫)
チャイルド44 下巻 (新潮文庫)

フロスト気質 上 (創元推理文庫 M ウ)
フロスト気質 上 (創元推理文庫 M ウ)

フロスト気質 下 (創元推理文庫 M ウ)
フロスト気質 下 (創元推理文庫 M ウ)

ブルー・ヘヴン (ハヤカワ・ミステリ文庫 ホ 12-1) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ブルー・ヘヴン (ハヤカワ・ミステリ文庫 ホ 12-1) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ウォリス家の殺人 (創元推理文庫)
ウォリス家の殺人 (創元推理文庫)


« Nintendo DREAM 任天堂ゲーム攻略本 おいでよ どうぶつの森 (任天堂ゲーム攻略本) 

ホーム |

 鋼の錬金術師 21 (ガンガンコミックス) »